T・K 女性 42歳
当医院初診時: |
平成13年2月 |
今回初診時: |
平成20年5月 |
今回主訴: |
治療途中なので |
【処置内容】
左上小臼歯部インプラントによる欠損補綴
矯正による上顎前歯部の歯列改善
臼歯部のブリッジによる欠損補綴
前歯部のジルコニアセラミックによる審美修復
咬合崩壊や歯牙移動による顎関節症不定愁訴の改善
今回治療期間: |
実質約6ヶ月 |
費用: |
1,251,000円 |
【今回治療後の考察】
過去に何回か遠方へ引越しされ、当医院での診療が中断していた患者様です。引越し先でその都度、治療をされていました。平成20年5月に、写真の状況で再初診されました。
お話しを聞くと、かなりのご苦労があったようです。当初は絶対に入れ歯だと思いましたが、ほとんどの処置法(矯正、インプラント、トライセクション、ブリッジ、根治等)を用いて、手際よく咬合の再構築ができたと考えます。当医院としては赤字でしたが、患者様が良くついてきてくれたことに感謝します。しばらくは咬合調整や歯周検査など定期健診をすることが肝要ですが、それも守って下さっています。治療を進める中で、素直で正直な方だと思いました。当時は本当に通院できなかったのに、つい叱ってしまったと反省しています。患者様の口腔内だけで判断せず、その生活環境も考慮することが大切だと痛感いたします。病気でも仕事や介護が忙しく、通院できないことが私にもありました。やはり「体」が資本です。
患者様に申し上げます。「子育てがんばってください!」これからも宜しくお願い申し上げます。
【リスク・副作用】
・インプラント治療には保険が適用されないので自費(保険適用外)での診療となり、治療費が高額になります。
・インプラントの埋入ともない、外科手術が必要となります。
・インプラントの耐用年数は、口腔内の環境(骨・歯肉の状態、噛み合わせ、歯磨きの技術、メンテナンスの受診頻度、喫煙の有無など)により異なります。
・矯正装置を装着することによる痛み、不快感が生じることがあります。
・歯の動き方には個人差がありますので、治療期間が延長する可能性もあります。
・矯正治療中には装置が付いているため歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病のリスクが高まります。
・噛み合わせや歯並びが変化した場合、再治療等が必要になることがあります。
・セラミック治療は保険適用外・自費診療となります。
・健康な歯、天然歯を削る必要があります。
・歯の状態によっては神経を治療が必要な場合があります。
・強い力をかけると割れる(欠ける)可能性があります。
症例 case 2
症例発表CASE 2
インプラント、矯正、ブリッジ等全顎治療
1. 施術前正面観
今回施術前の正面です。主訴は治療再開。現状は左上下顎臼歯部の長期欠損や低位の不適切ブリッジ等による咬合平面の崩壊、上顎臼歯の廷出、前歯部の突き上げなどが見受けられます。上顎2,2番も失活しています。典型的全顎治療です。
2. 施術前上顎面観
上顎です。前歯部の叢生、左上の欠損放置、同、6番の残根(抜歯必至)そして全部の歯の修復物の2次カリエス、2,2番の失活など問題は山積しています。
3. 施術前下顎面観
下顎です。左下8番の残根、左下の低位で不適合なブリッジ、右下のブリッジなどは咬合不調和により破折脱離のままの状態です。
4. 施術前左側面観
左下はいわゆるバケツ冠(※)ブリッジでかなり低位、あまりにも冠辺縁が不適合なのでそれが原因の歯周病及び2次カリエスとなっています。左上は3番の唇側転位、4,5番は欠損で6番残根です。6番は通常抜歯ですが義歯を回避するために何とかしたいと考えました。
※我々歯科医のなかでは、バケツ冠とは雑な歯冠補綴処置という意味で使う言葉
5. 施術前右側面観
右下の破損したままのブリッジが低位、上顎5,6番の冠が高位で過剰な湾曲があります。また3番の唇側転位が目立ちます。
6. 施術前X線写真
よくこれで日常生活を過ごしていたと思います。失活している歯または被覆している歯の根管治療(神経の治療)も不適切で、まともに対応されずにきたことをうかがわせます。
7. 左下不適合ブリッジ除去後
左下のいわゆるバケツ冠ブリッジを除去したところ、旧インレーが残されていました。除去し覆髄してから処置すべきです。幸い、2次カリエスはそれほどではないですが歯肉の発赤が顕著です。7番は歯髄覆髄、5番は再根治、8番は抜歯で仮歯を1日で入れました。
8. 除去した左下ブリッジ
左下のいわゆるバケツ冠ブリッジです。ダミー部の内面、白いヘドロ状のものはプラークです。冠内面は黒変し、とても見苦しい写真です。あえて掲載しますが、患者様はこれを常時しゃぶっているということです。毒々しく、知らない間に寿命が縮まると思われます。
9. 下顎左右仮歯仮着時下顎面観
歯周病や2次カリエスも心配ですが、何より咬合再構築のために旧不良冠を除去することが先決でした。根管治療等は後でゆっくり処置するとして、2回の集中治療で下顎を仮歯としました。1回につき診療は約3時間です。咬合平面は仮想平面としています。
10. 左上小臼歯インプラント及び6番トライセクション
左上6番の残根は最もカリエスが深く、クラックの入っていたMB根のみを抜去して歯牙は保存しました。小臼歯部はインプラント一本として対応しています。この写真は前歯部矯正移動後のものですが、セットアップ模型上で3番の八重歯が改善した後を想定したところ、4,5番の2本欠損については1本のインプラントでいけると判断しました。
11. 上顎矯正初期正面観
下顎左右臼歯部を仮歯としてから上顎の矯正を始めたところです。
12. 上顎矯正初期上顎面観
右上の高位な不適冠も除去して仮歯とし、右上6番は暫間クラウンを入れました。小臼歯部位はインプラントを一本埋入しています。矯正移動中は必要部位の根管治療に専念します。ここまでで実質5回の診療回数です。左右の7番は既にインレー処置を終えています。これは健康保険です。
13. 右上5,6番不良根管治療時X線写真
矯正期間中にはひたすら根管治療に専念しました。まずは仮歯による咬合平面の是正および咬合再構築を計るためのプロビジョナル期間、咬合咀嚼嚥下リハビリ中においては、1歯レベルの不良根治を症状がなくてもやり直します。この写真は右上5,6番部位です。
14. 右上5,6番再根管治療施術後X線写真
右上5,6番はだいぶ根管を拡大せざるを得ませんでした。やはり不良根治のやり直しは患者様にも術者にもたいへんなエネルギーとストレスを与えるものです。狭窄した根管を一生懸命リーマーダコを作りながらファイリングして、根管側壁の罹患歯質の除去と根尖部の消毒殺菌を、さらにレーザーも併用しておこないました。
15. 上顎矯正終了時正面観
矯正による歯牙移動をほぼ終える前の正面観です。歯肉辺縁も連続性がありそれほど最終補綴において歯肉整形せずに済みそうです。施術前はやはり上顎の叢生のほうが圧倒的に目立っていたのですが、この段階では下顎前歯部のほうが目立つような気がします。今後の課題です。
16. 上顎矯正終了時上顎面観
上顎面から見るといわゆる八重歯が改善され歯列の連続性が確保されました。右上6番は暫間的に入れたクラウンでMB根抜去ですが歯肉縁下が残根状でしたのでエクストルージョンも併用しています。仮歯で仮着エクストルージョンをすると頻繁に仮歯が脱離すると思われたので、先に根治を済ませやり直しすることを前提にセットしています。
17. 矯正終了後正面観
矯正装置を外したところです。必要な根治も全て終え、臼歯部はコアセット後の仮歯状態です。この日のうちに前歯2,2番のコア形成印象と仮歯セット、右上6番の暫間冠の除去と再仮歯セットをおこないました。
18. 矯正終了後上顎面観
矯正期間約2ヶ月強、仮歯を使用しての保定として約3ヶ月強、この頃にはインプラントもインテグレーションするには十分な期間で上顎を一気に印象していきます。
19. 施術後正面観
上顎2,2番はファイバーコアを入れ、ジルコニアセラミックを仮着しています。3番や1番の歯根部の過去のアブフラクションによる黄変が気になります。今後の課題です。
20. 施術後上顎面観
左上のインプラントはセラミックの上部構造とし、左右の6番は健康保険にて対応、右上の5番は近心側に隙様ダミーの逆延長セラミック冠としました。歯列の改善により口唇の咬傷や口腔の乾燥感などが消失したようです。
21. 施術後下顎観
左右においてMBセラミックブリッジとしています。右下8番は単冠で健康保険にて対応しました。
22. 施術後左側面観
左側の咬合関係において、施術前と比較して平面の是正や歯肉の改善が認められます。
3番の歯頚部の変色が気になります。
23. 施術後右側面観
右側の咬合関係において、施術前と比較して平面の是正や歯肉の改善が認められます。左右のチューニングサイクルのバランス等も図られています。3番の歯頚部の変色が気になります。今後の課題です。
24. 施術後X線写真
X線パノラマ写真において咬合平面の改善と左右対称性、1歯レベルでの根管状況が確認されます。当医院での正規の費用算定では約170万円程となりますが、モデルケース扱いとして自由診療費約120万円、その他健康保険適用部位は自己負担分のみで仕事を受けました。私は経営者には向いていないようです。患者様には今後のさらなる定期健診とセルフケアの啓発に努めます。
インプラント、矯正、ブリッジ等全顎治療